お金と契約の法務
会費・謝礼・契約名義。担当者自身を守るための決めごと
PTAのお金と契約は、担当した個人が思わぬ責任を背負い込みやすいところです。多くは「悪意」ではなく「決めていなかった」ことから起こります。会費の扱い、近年ふえてきた役員への謝礼や会費免除、そして契約の名義と責任について、要点をまとめました。

- 会費は預かったお金です。担当者を疑うためではなく疑われないように、「魔が差せない」仕組みにしておきます
- 謝礼も会費免除も、法的には同じ「経済的利益を渡すこと」。会則の根拠・総会の承認・基準の文書化・記録の4手順は共通です
- 気をつける論点は4つ——利益相反/税金(源泉徴収)/「雇用」とみなされないか/会費免除と任意加入の緊張
- 契約は会長個人の名義になりがちです。役員交代のたびに名義の棚卸しを
会費は「預かったお金」
会費は、会員から目的をもって預かったお金です。私的な流用は、金額にかかわらず業務上横領という犯罪になります。大事なのは担当者を信用するかどうかではなく、「魔が差せない」仕組みにしておくこと。疑うためではなく、疑われないようにして担当者自身を守るためです。
- 通帳と印鑑は別の人が保管し、支出は複数人で確認する。承認の記録を残す
- 現金はできるだけ持たない。口座振込を基本にすると、記録が自然に残ります
- 使い道は、会則と総会で決めた予算の範囲内で。予算にない支出は、承認を得てから
- 繰越金や積立は、目的と上限を決めておく。「なんとなく貯まっている」は説明がむずかしくなります
※日々の会計実務は会計担当になったらにまとめています。
役員に報いるとき —— 謝礼と会費免除
なり手不足を背景に、役員に謝礼を払う単会や、役員の会費を免除する単会が出てきています。出すこと自体の良し悪しではなく、決め方と見え方の問題です。
前提として、謝礼も会費免除も、法的には同じ「経済的利益を渡すこと」です。現金を払うか、払うべき会費を免除するかの違いにすぎません。以下は両方に共通する話として読んでください。
まず、この4つを踏む
- 会則に根拠を置く——「別に定める基準により支給(免除)することができる」の一文
- 総会で承認を得る——予算書に金額を明示し、会員が判断できる状態に。役員会だけで決めない
- 基準を文書にする——対象・金額・上限。その場の判断で増減させない
- 記録を残す——決算で誰が見ても追える形に。免除も金額を明示します
なお実費弁償(交通費・通信費・材料費の精算)は、これとは別のものです。労力への対価ではないので、領収書にもとづき誰でも受けられる形にしておきます。「交通費として一律3,000円」のような渡し方は、実態としては謝礼と見られることがあります。
見落としやすい4つの論点
| 論点 | 何が起こりうるか | どうする |
|---|---|---|
| 利益相反 | 自分たちへの支払いを自分たちで決める構図になり、批判を受けやすい | 金額を決めるのは総会、支給は基準どおり機械的に。会計監査の対象に必ず含める |
| 税金 | PTAのような人格のない社団も源泉徴収義務者になり得ます。講演料・原稿料は対象。商品券や会費免除も「経済的利益」で、現金と扱いは変わりません | 名目ではなく実態で判断されます。支払う前に所轄の税務署へ。予算を組む段階での確認がおすすめ |
| 「雇用」とみなされないか | 実態が労務の対価だと労働者と評価される余地があり、労災保険・雇用保険・労働時間管理・最低賃金などが付いてきます | 時給・日給にしない。出勤簿的な管理をしない。進め方を指示・命令しない。特定の人が専従的に担う形にしない |
| 会費免除と任意加入 | 「役員をやれば免除」は、裏返すと「やらない人は負担が重い」構造。役員を引き受けないことへの不利益と受け取られると、PTAの任意性を損ないます | 会則と総会で根拠を明確に。免除の趣旨を会員に説明できる形にしておく |
「雇用」については、過度に心配する必要はありません。役員は他人に使われて働く人ではなく自らの団体の運営を担う立場なので、通常は労働者に当たらないと考えられます。社会保険(健康保険・厚生年金)の強制適用も法人などに限られ、月数千円の謝礼で直ちに加入義務が生じる話ではありません。ただし労災保険・雇用保険は入口が低いため、実態が雇用に近づくほど注意が必要になります。上の「どうする」欄は、その距離を保つための線引きです。
会費免除のときに、あわせて決めること
- 決算での見せ方。免除は「収入がすこし減る」形になり、総額が見えません。会費収入と免除額を両建てで示すと、いくらを誰に配分したのかが伝わります。透明性という一点では、免除より謝礼のほうが説明しやすい面があります
- 途中交代・辞任のときの按分と、お子さんが複数在籍する場合の扱い
- 会則との整合。「会費未納者は会員でない」と定めている場合、免除された役員が会員資格を失う読み方にならないか確認を
- そもそも業務量を減らせないか。免除や謝礼で報いる前に、やめられる仕事がないかを見直すほうが、根本的な解決に近づきます
学校の先生へは、渡す前に相談を
公立学校の先生は公務員です。職務に関して利益を受けることには制約があり、学校や教育委員会の内規もあります。先生個人への謝礼や記念品は、渡す前に必ず管理職の先生にご相談ください。「感謝の気持ち」が、受け取る側を困らせてしまうことがあります。
学校への寄附
- 学校の修繕費や備品は、本来は設置者(市)が負担するものです。PTA予算での肩代わりはできません
- 寄附には受け入れの手続きがあります。学校と事前に相談を。「毎年やっているから」で続けず、前例の見直しも役員の仕事です(→会計担当になったら)
契約と責任 —— PTAは「法人」ではない
PTAの多くは法人格のない任意団体です。団体名義で契約や口座開設ができないことがあり、実際には会長個人の名義になりがちです。曖昧なまま代替わりすると、前任者に責任や手続きが残り続けます。
- 「団体の契約であり、名義人個人の債務ではない」ことを議事録に残す。会則・引き継ぎ資料にも書いておく
- 役員交代時に、名義変更の棚卸しを。口座、リース、ドメイン・サーバー、有料サービス。年度末のチェックリストに入れる
- 長期契約・自動更新に注意。任期1年の役員が数年の契約を結ぶことになります。期間・解約条件・違約金は結ぶ前に確認を。個人のクレジットカードでの契約は避ける
事故と賠償、そして保険
- 行事の主催者として、賠償責任を問われることがあります。参加者のけが、施設の破損、食中毒など
- 年度初めに加入状況を確認する。市P協の補償(保険)制度と補償の範囲を、役員全員で共有しておきましょう
- 「無償のボランティアだから責任がない」わけではありません。だからこそ、保険と手順で備えます。入会は意思確認のうえで(→PTAって必要なのか)
出典と相談先
税金(国税庁 タックスアンサー)
- No.2502 源泉徴収義務者とは — 人格のない社団・財団も義務者になる、の出典
- No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは — 対象になる支払いの一覧
- No.2795 原稿料や講演料等を支払ったとき — 外部講師を呼ぶとき
- No.2508 給与所得となるもの — 「謝礼」が給与にあたるかを考えるとき
労務・社会保険
- 厚生労働省「確かめよう労働条件」 — 労働条件全般のやさしい入口
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」 — 社会保険の強制適用の範囲
- ハローワーク「雇用保険制度の概要」 — 加入要件(週20時間など)
- 厚生労働省「労災補償」 — 労災保険の考え方
相談できるところ
※リンク先の内容は更新されることがあります(このページのリンクは2026年8月時点で確認したものです)。
ご注意
このページは一般的な情報提供であり、個別の事案についての法的助言・税務助言・労務や社会保険に関する助言ではありません。とくに税と労務の取扱いは、金額・名目・実態によって結論が変わります。実際の判断は、所轄の税務署、税理士、社会保険労務士、弁護士などの専門家にご確認ください。また、法令や制度は改正されることがあります。
あわせて読みたい
- PTA活動と法務 — 法務のトップ。許認可・交通ルール・相談先
- 会計担当になったら — 予算・決算・日々の会計実務
- PTA役員・委員の話がきたら — 役員の決め方をめぐる考え方
- 補償(保険)制度について — 事故と賠償への備え